先日、テレビの映画を何気なく見始めた。
リモコンを手にして、そのまま動けなくなってしまった。
まわりの声も音も、耳に入らなくなった。
映画の中に入ってしまっていた。
「善き人のためのソナタ」という2006年製作のドイツ映画。
後で調べると、2006年のアカデミー賞外国語映画賞など多くの賞を受賞している。
ベルリンの壁が崩壊する5年ほど前の東ベルリンが舞台だ。
秘密警察の一人の男が、ある劇作家のアパートを四六時中、盗聴する。
盗聴している男は、次第に、劇作家の人生、芸術、理想、愛に共感を覚えていく・・・。
人間の弱さと強さ。
誇りと屈辱、裏切りと愛、が静かに描かれている。
この映画のベルリンの壁の崩壊後のラストシーンもとても感動的だ。
ベルリンの壁崩壊の数年前、私も東ベルリンを訪れたことがあった。
この映画のように、静かな、そして密やかな街だった。
ベルリンという一つの街が、「壁」によって東西に分断されていた。
西側へ脱出しようと、多くの人が壁を越えようとしたが、殺された。
私は、東ベルリンから西ベルリン行きの電車に乗った(西側の旅行者は東側に行けた)。
東ベルリンの市民は決してその電車に乗れない。
東ベルリンを離れるとき、私の後ろで鉄の扉が降りた。
その鉄の扉の大きな音は、今でも記憶の底にあるように感じる。