社長のためのポーター競争戦略 その1-34 「戦略の罠1」
ここまで多数乱戦業界における対処法を見てきた。
いよいよ戦略案を策定するのだが、ポーターは、周到にも、ここで「戦略の罠」という注意点を述べている。
戦略策定に際して、この業界特有の「罠」があると言うのだ。
5つある。
1)圧倒的支配を目指すという罠
これまで見てきたように、多数乱戦になる「経済的理由」というものがある。
これを無視して、業界を「制覇」しようとしても、ムダに終わるのだ。
「すべての人にあらゆるものを」などという野望は、即座に捨てた方がよい。
ポーターは面白い例を挙げている。
「ロブスター(えび)漁業」の制覇を目指した会社だ。
その会社は、港湾設備や漁船の修理設備、トラック輸送、レストランまですべて一貫して自前で持ち、
最新の漁船で大船団を組み、ロブスターを一網打尽にするべく漁に出た。
しかし、最新鋭の漁船がたくさん漁場に向かったからといって、それだけロブスターが獲れるわけでもない。
漁には、漁獲高の変動がつきものだ。
高い固定費なので、市場に出す値段はかなり高いものだった。
そこで、小さな漁船の漁師たちは、安い価格で市場に出すことができた。
ロブスター業界の制覇を目指した会社は、資金繰りに行き詰まり、あえなく操業停止となってしまった…。
多数乱戦の構造の基礎となる経済的原因として、「規模の利益」が成り立たないということがあった。
この原則を無視して、業界を制覇しようとしても失敗に終わる…。
これが一番目の「戦略の罠」だ。