鎌倉時代の兼好法師の「徒然草」は、日本文学における代表的な随筆だ。
「大人の智恵」が、溢れていて、秘かな?ファンも多い・・・。
徒然草 第二一一段に、「あまり 人やものを頼りにしてはいけない。深く頼りにしてしまうと恨んだり、怒るということになるよ(万の事は頼むべからず愚かなる人は、深く物を頼む故に、恨み、怒る事あり)」として、いくつか具体例をあげて述べている。
①勢ひありとて、頼むべからず。こはき者先づ滅ぶ。
(勢いのある人といって頼りにしてはいけない。強い者が先に滅ぶものだ)
②財多しとて、頼むべからず。時の間に失ひ易し。
(財産が多いからといって頼りにしてはいけない。一瞬の間になくなりやすい)
③才ありとて、頼むべからず。孔子も時に遇はず。
(才能があるからといって頼りにしてはいけない。あの孔子だって、なかなかチャンスにめぐり合えなかった)
④徳ありとて、頼むべからず。顔回も不幸なりき。
(徳があるかといって、頼りにしてはいけない。孔子の第一の弟子顔回も不幸な境遇だった)
⑤君の寵をも頼むべからず。誅を受くる事速かなり。
(主人の寵愛も頼みにしてはいけない。罰を受けることもまた早い)
⑥奴(やっこ)従へりとて、頼むべからず。背き走る事あり。
(家来が従うと頼みにしてはいけない。背いて敵方へ走ることもある)
⑦人の志をも頼むべからず。必ず変ず。
(人の志も頼みにはならない。必ず変わるものだ)
⑧約をも頼むべからず。信ある事少し。
(約束も頼りにはならない。信用できることは少ない)
身をも人をも頼まざれば、是なる時は喜び、非なる時は恨みず。
(だから、自分も人も頼りにしなければ、いいときは、喜べるし、そうでないときは、恨みもしない)
(中略)
人は天地の霊なり。天地は限る所なし。人の性、何ぞ異ならん。
(人は天地の霊だ。天地は限りがない。もちろん、人も同じように限りがない)
寛大にして極まらざる時は、喜怒これに障らずして、物のために煩はず。
(寛大な気持ちで、追い詰められなければ、喜怒の感情にさえぎられず、物に煩わされない)
つい、人をあてにしたり、頼りにしたりして、満たされないと、逆に恨んだり、時には、怒ったりしてしまうこともありがちだ。
人は、本来、「天地の霊」として、のびやかで屈託のない心持ちがあるはずだ。
そうでありたければ、あまり、深く、人や物を頼るようなことはしていけない、ということがよくわかる・・・。